ヨーロッパ鉄道周遊(7) ブダペスト(2015.03.03)
2015.03.03
Wien Westbahnhof 748 → Budapest-Keleti 1049
EC 149
Blaha Lujza tér → Deák Ferenc tér
地下鉄2号線
Deák Ferenc tér → Arany János utca
地下鉄3号線
ブダペスト(Budapest)散策
くさり橋,王宮,マーチャーシュ(Mátyás)教会,漁夫の砦,聖イシュトヴァーン(István)大聖堂
Deák Ferenc tér → Keleti pályaudvar
地下鉄2号線
Budapest-Keleti 1710 → Wien Westbahnhof 2012
RJ 42
ウィーン泊
Mercure Westbahnhof
ウィーンには3泊する予定なので,本日はここを拠点としてハンガリーのブダペストを日帰りで往復する.時刻表上は222km,国際都市間特急のユーロシティでおよそ3時間の旅である.時代の流れからか,ヨーロッパでも特急列車はオープンサロンタイプの車両が主流となりつつあるらしく,今回,昼行特急でハンガリー国鉄の古典的なコンパートメントタイプの客車に乗ることができたのは幸いであった(もちろんそういう列車,車両を狙って乗って予約しているのだが).ちょうど6人の個室なので,こういう小規模なグループにとってはあの「ホグワーツ特急」のようなノリがあって楽しい.
しかしまあ,気のおけない仲間でこの密室を占有するなら楽しいが,停車駅ごとに見ず知らずの他人が出入りして,それも長時間向かい合わせで座るとなると,精神的疲労はそれなりに大きい(寝てしまえば気にならない開放寝台との相違点か).もっとも,かつては個の観念,いわゆるプライバシーの意識が現代とは多少異なって直接の人的交流に対する心理的障壁が低く,また今よりも階級社会の色が濃く身分に応じて乗れる車両も暗に決まっていたのだろうから,無用なストレスとか変なトラブルとかは意外と少なかったのかもしれない.
列車は快調に走り,定刻でブダペスト東駅に到着した.ターミナル駅だが,ホームの本数が多いわけではない.しかし,高いドーム型の天井,大窓や支柱の幾何学的な造形などを見るに,それなりの格式がある駅だということを感じさせる.都市間を結ぶ中長距離列車がその編成を静かに横たえている様は,なかなか絵になるものだ.
観光の中心地はドナウ川を挟んだ両岸にあり,東駅からは少し離れている.当初は歩いて向かう予定だったが意外にも距離がありそうなので,途中から地下鉄に乗ることにした.駅に降り立ったときから薄々感じていたのだが,街の表情はどことなく殺伐とした雰囲気だ.いかにも不審な人がいるとか,治安が悪そうとかいうわけではないのだが,街路には無機質なコンクリート造りの建物が目立ち,ウィーンで感じたような華やかさや明るさには欠ける.最たるものが地下鉄で,いつの時代に製造されたのだろうというような武骨な鋼鉄製の車両(もしやソ連製だろうか?)が行き交っている.構内も薄暗く,人々はみな押し黙っており,とても電車の撮影に興じるような雰囲気ではなかった.まさにこれが,東側諸国,旧共産圏の空気感なのだろうか.ブダペストに着いて最初に感じたのは,随所に漂うその残り香であった.
ところが鉄のカーテンといっても所詮は第二次大戦以降の話であり,色々紐解いてみるとこの町にははるかに長大で複雑な歴史があるようだ.なるほど,ドナウ川に近づき旧市街に入ると,ハプスブルク家の支配や,オーストリア=ハンガリー帝国時代の色が濃くなっていくように思われる.観光の見どころもこの近辺に集中しているので,『歩き方』に載っていた庶民的なレストランで昼食をとった後,セーチェーニ(Széchenyi)くさり橋を渡って対岸の王宮や教会を訪れることにした.料理はジャガイモや肉を中心とした素朴なものが多く,とくにこの地域はパプリカによる味付けが特徴的である.コイのスープなども出てきたが,結構クセがあるので人によって好みが分かれるだろう(個人的には嫌いではなかったが).
昼下がりから晴れ間がさらに広がり,気分は清々しい.ブダの丘から見下ろすドナウ川とくさり橋,そして国会議事堂などは,やはり文脈抜きでただそれだけで美しい.完全に予習不足であったが,ローマ帝国時代から始まる街の歴史を知っていればさらに面白かったことだろう.世界史,とくにヨーロッパ史を深く理解するのが困難なのは,民族,文化,国家といったものが陸続きのまま分離,融合を繰り返し,しかもさまざまな時相で錯綜するからであり,またその様子を知識としては短期的に仕入れられても島国で無意識のうちに培われた感覚からはだいぶ離れていて実感に乏しいという側面も大きい.
そろそろ陽も西に傾いてきた.17時過ぎの列車でウィーンへ戻る予定になっているので,再びくさり橋でペストの岸へ渡ってから,ゆっくり東駅へ向かうことにする.イシュトヴァーン大聖堂は残念ながら内部を見学する時間はなく,夕陽を浴びる姿を外から拝むに留める.そうはいっても観光名所自体は頑張れば一日で回れる規模なのだが,もっと時間に余裕があれば一泊でもして,歴史の勉強でもしながらのんびり過ごしても良さそうな街だと感じた.
駅はもう夕刻の斜光線に包まれている.来たときは逆光であまり気に留めなかったが,ファサードの威容はなかなかのもので,ターミナル駅にふさわしい風格を備えている.
ウィーンへの帰路は,オーストリア連邦鉄道(ÖBB)が運行するレイルジェットの列車に乗る.旧来のユーロシティを徐々に置き換えつつあるという.客車列車であることに変わりはないのだが,時代に合わせて専用の電気機関車とともに高速化され,ずいぶんと洗練されつつあるように見える.「古き良き」コンパートメントタイプの客車はいずれ淘汰されてしまうのだろうか.小腹が空いたので,簡易構造の食堂車でグラーシュを食べた.ウィーンに帰り着いたのは20時を回った頃であった.