ヨーロッパ鉄道周遊(12) 総括

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最終日.曇天のルーヴルを後にする

2015.03.09

Cadet → Gare de l’Est

地下鉄7号線

 

Gare de l’Est → Gare du Nord

地下鉄5号線

 

Gare du Nord → Aéroport Paris-Charles de Gaulle Terminal 2

RER B3線

 

2015.03.09→03.10

Paris Charles de Gaulle(CDG) 1705(GMT+1) → 東京・成田(NRT) 1300(GMT+9)

全日本空輸206便(NH 206)

 

機中泊

交通費を節約しようと急に思い立ち,空港までは市内の地下鉄と近郊鉄道のRER(エール・ウー・エール)を乗り継いで向かうことにした.あまり柄の良くなさそうな地域を走り抜けて,夕方のシャルル・ド・ゴール空港に到着.全日空の直行便で帰国となる.いやはや,2週間以上に及ぶかつてない大旅行であった.

 

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ヨーロッパの鉄道旅行は大変面白い.まず,さすがは本場だけあって車両の魅力は尽きない.動力集中方式が主流なので,今なお数多くの客車列車が活躍している.ドーム型の屋根をもつ広大なターミナル駅のプラットホームに,美しく統一された長編成が横たわる姿も,あるいは多種多様な各国の客車が国際列車として混結されている様も,実に旅情をかき立てるものだ.それに,船が静かに滑り出すようなあの発車シーンもたまらない.そんな光景,本邦ではもはや過去のものとなってしまった.

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(2015.03.03 Budapest-Keleti)

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(2015.03.01 Venezia S. Lucia)

チェコのように亜幹線では旧式の客車がまだまだ頑張っているところもあるが,もちろん最新鋭の車両が投入されている国や線区も多い.しかしながら,新型とはいってもどの客車も塗装がしっかりしているし,優等列車にふさわしい重厚感を備えている.E***系みたいな軽量ステンレス鋼むき出しの銀色の車両など見当たらないのだ.列車とはあくまで列車であり,ただ効率的に走るだけの装置ではない.単なる車両デザインの特徴という問題には留まらず,鉄道に対する根本的な気概が異なるように思う.

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優等列車の格式とは何だろうか(2014.02.15 白老~社台;2015.02.26 Salerno)

別の面白さとしては,やはり陸路での越境が挙げられるだろう.列車内という物理的な空間は同一のまま,いつの間にか車内には別の言語が聞こえるようになっていたり,寝ている間に夜行列車で国境を越えていたりする.各停車駅では乗客が様々に入れ替わり,食堂車では各国の料理が多言語で提供され,大きな窓外に広がる町並みや植生は絶妙なグラデーションをもって変化していく.ヨーロッパは,大陸というスケールで見ると比較的コンパクトな地域の中に(すなわち,長くても20時間程度の鉄道移動が可能なくらいの距離感の中に)多様な国家,文化,言語を擁している.したがって,車内で実感する変化のグラデーションが実に鮮明であり,動的であり,感動を誘いやすい.世界的に見ても,こういった特徴をもつ地域は意外にも少ないものと思われる.もちろん,陸続きの国境という概念を生まれつきもっていない立場からの意見である.島国の人間からすると,とにかく列車での国境越えは新鮮のひと言に尽きるのだ.

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(2015.03.01 Tarvisio-Boscoverde)

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(2011.03.21 Gare de l'Est)

旅そのものの原点に立ち返ってみても,異邦の鉄道旅行の面白さは色々と見えてくる.かつての日記帳から,2011年3月7日付の記事を引用しよう.尾道について綴った紀行文の一節である.

文学のこみちを下り、千光寺に至る。逆光にかすむ朝の港町を見下ろしながらのゆったりとしたひと時であるが、学校のチャイムも聞こえる。ちょうど1時間目が終わった頃だろうか。異質な日常の中にぽいと放り込まれたようなこの不思議な感覚は、旅行の醍醐味である。そうした感覚というのは、狭い列車の中では濃密に凝縮され、広い街の中では広範に拡散する。淵の奥深くへと潜るか、大海原を宛てもなく漂流するか。どちらも面白い。

国内旅行でさえこういった感想を抱くのだから,異国の地では受容する感覚がさらに増幅される(もはや受け止めきれないほどである).鉄道そして列車とは,その土地に根ざした日常生活の一部なのである.鉄道旅行では当地の住人らとともに旅をするのであり,互いに異邦人でありながらも,束の間ながら同一の空気感を共有することになる.航空機にも良さはあるのだが,やはり非日常という性格があまりに強すぎて鉄道の魅力には敵わないと思っている.

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(2011.03.18 Cannes - Toulon間 TER 17486列車にて)

ようやく5年前の卒業旅行の記事が完結した.こうして執筆に至ったのも,猛威をふるうCOVID-19により病棟勤務と自宅待機とを1週間ごとに交替する体制を余儀なくされたからであり,待機中は出かけられるわけでもなく,勉強をするでもなく,論文を執筆するでもなく,ようやく行きついたのがこの「窓辺」であった.今後も折を見ながら細々続けていきたいと思う.

 

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