オーストリア・ドイツ旅行(1) ウィーン(2018.09.22-23)

海外紀行を書いた流れで,2018年の夏季休暇も振り返っていくとしよう.旅程の大枠は,5月初旬の新宿の紀伊國屋書店だったか,そこの旅行コーナーであっという間に決まったのだった.まとまった休暇ならではの海外という行先を漠然と考えていたことや,再度のヨーロッパ鉄道周遊への憧憬から,いつの間にか"EUROPEAN RAIL TIMETABLE”を手に取っていた.そして路線図や鉄道での所要時分から地域のサイズ感や観光地の分散程度を把握し,以前の旅でドイツ語圏への関心が高まっていたこともあって,オーストリアという行先が決まるまであまり時間はかからなかった.『JR時刻表』の国際線ページを見るとウィーン(Wien)への直行便は曜日指定の運行と分かったため,土曜出国,金曜帰国の日程をフル活用するには,行きはウィーンへ飛び,帰りは隣国ドイツのミュンヘン(München)からヨーロッパを後にする,いわゆるopen-jawの行程が最適解なのだと判明した.であれば,ウィーン,その近郊,ザルツブルク(Salzburg)というふうに徐々に西へ向かう動線を描いて観光地を回れば,全体がきれいに収まるだろう.この,パズルのピースがカチャカチャとはまっていくような感覚,毎度のことながら非常に面白い.

2018.09.22

渋谷 0809 → 成田空港 0929
成田エクスプレス11号

 

東京・成田(NRT) 1335(GMT+9) → Flughafen Wien(VIE) 1835(GMT+1)
全日本空輸6325便(NH 6325)

 

Flughafen Wien 1903 → Wien Hbf 1918
RJ 762

 

ウィーン泊
Novum Hotel Prinz Eugen Wien

 

2018.09.23

美術史美術館

国立図書館(Prunksaal)

シュテファン大聖堂(Stephansdom)

Wiener Staatsoper La Traviata(1800-)

 

ウィーン泊
Novum Hotel Prinz Eugen Wien

173連勤が明けた土曜の朝は,待望の夏休み.オンコールとして縛られどこへも行けない日々の中,ようやく訪れた休暇である.今から思えば,よくぞあの生活を送っていたものだ(このテーマは当分先の記事にとっておこう).渋谷で待ち合わせた後,成田エクスプレスで空港へ向かう.車窓の後方へぐいぐいと東京が遠ざかっていく様を見て,ようやく「解放」を実感したのだった.空港では軽食をとった後,航空科学博物館のミュージアムショップを物色し(かなりマニアックな品が並んでいて面白かった),展望デッキを訪れ,ラフィネでマッサージを受け,ついに昼過ぎのウィーン行に搭乗した.直行ではあるが全日空とのコードシェア便で,運航と機材はオーストリア航空である.およそ13時間を過ごした機内はかなり狭苦しかった.ウィーン国際空港から市内の中央駅まではÖBBの特急列車で20分足らずの所要.乗ったのは,インスブルック(Innsbruck)行のレイルジェットであった.

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中央駅に降り立つと,ミラノ行の夜行列車が発車するところであった
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一日がかりの移動を終え,すっかり夜である

中央駅のホーム反対側にはミラノ(Milano)行のナイトジェットが停車中で,ちょうど発車時刻を迎えたところであった.新型とはいえ重厚な装いをした客車の群れが,暗がりの中をゆっくりと滑り出して異国への旅路を歩み始める.卒業旅行以来3年半ぶりにヨーロッパの鉄道に触れ,にわかに血が騒ぎ始める.日本時間ではもう深夜になっており,一日がかりの移動を経て本来ならば疲労困憊のはずなのだが,駅でしばらく撮影に興じてから宿へ向かった.

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翌朝,美術史美術館を訪れる

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開放感に溢れるカフェ

翌朝は美術史美術館を訪れた.やはり有名どころの絵画を回っていったのだが,同行者は以前から館内のカフェが気になっていたらしい.広大な吹き抜けを有する八角形の空間で,なるほど,確かに洒落ている.3年前に訪れた際は,そもそも存在すら知らなかった場所である.軽食をとり,軽く酒を飲み,しばしの休憩.美術館の中にこんな店があるとは.

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美術史美術館,階段の風景.午後は国立図書館も再訪した

そういえば,10-18mmの広角レンズを海外へ携行するのは今回が初めてである.手近なところでは建築物の内部でその力を発揮することが多い.美術館の後は国立図書館(Prunksaal)も再訪したのだが,肉眼で受容するこの景色がこうも鮮やかに再構成されるのかと,改めて感動を覚えた.とくにこの西欧のように完璧な対称性を求めるような美的感覚または価値観が優勢な場所では,その特徴が際立つというものだろう.

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シンメトリーの追求

王宮は双方とも卒業旅行で訪れたことがあったので,訪問は省略.この日は今ひとつの空模様である.午後はシュテファン大聖堂(Stephansdom)を訪れ,早めに宿に戻った.

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シュテファン大聖堂にて

本場でオペラを観劇しようということで,いわゆる正装へ着替えた後,夕方に国立歌劇場へ向かう.下調べの段階で色々検討した結果,少々値が張るものの平土間席(Parkett)を予約しておいた.たまたまスケジュールも合って,演目はLa Traviata(椿姫).筋は一応予習しておいたのだが,驚いたのは座席に液晶ディスプレイがついており,選択した言語での字幕が劇の進行に合わせて流れるようになっていたこと.英語,ドイツ語,その他ヨーロッパの諸言語の中にぽつんと日本語も混ざっていて,不思議な光景であった.それだけ,ここを訪れる日本人が多いということなのだろう.

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開演前に腹ごしらえして,国立歌劇場へ

さて舞台もオーケストラも遮るものがない王道の席で改めて観劇したのだが(3年前は視界のないボックス席でのバレエだった),オペラ自体は,いやしかし,見事に完成された舞台芸術としか言いようがない.また,それに対する国をあげた誇りも随所に感じられ,やはり畏敬の念に近いものを覚える.洋の東西を問わず演劇鑑賞というものに対する造詣がほぼないので,その程度のコメントしかできないのが残念である.演劇の内容としては,字幕装置の助けが大きく,素人にも十分楽しめるものであった.この世界も凝ってくると,オーケストラがどうとか,俳優がどうとか,きっと蘊蓄を語り始めれば切りがないのだろう.

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格調高い劇場内

観光客も一定数いるようだが,おめかしして訪れている本国の観客もそれなりに見受けられる.どういった層が劇場に足を運んでいるのだろう.たとえば日本で歌舞伎を観るということとは,どの程度の相似性があるのか,ふと気になった.それなりの席で観ようと思えば間違いなく金がかかる高級な娯楽であることは共通している.また,歴史的な重みを考えると内容を理解するための背景知識もそれなりに必要と考えられる.この椿姫の劇中で歌われているようなイタリア語も,実際の母語話者がどれほど聴解できているのか,大いに疑問である(たぶん古い言い回しとか,独特の抑揚とかがあって,かなり難解なのではないか).たまたまウィーンに観光で居合わせた外国人がふらっと観劇したところで,いきなり芸術を理解するところまでは到達しえない.まあ,そんな難しいこと考えずに,テキトーに楽しめばいいじゃないの.そう思って寝ることにした.

オーストリア・ドイツ旅行(2) ヴァッハウ渓谷(2018.09.24)へ続く