オーストリア・ドイツ旅行(2) ヴァッハウ渓谷(2018.09.24)
2018.09.24
Wien Hbf 0830 → St Pölten 0858
RJ 262
St Pölten 0905 → Melk 0920
REX 1906
メルク(Melk)修道院
Melk 1100 → Dürnstein 1230
DDSG Blue Danube Schiffahrt
ヴァッハウ(Wachau)渓谷 川下り
デュルンシュタイン(Dürnstein)観光
Dürnstein 1750 → Krems an der Donau 1810
DDSG Blue Danube Schiffahrt
Krems a.d. Donau 1919 → St Pölten 1955
R 6054
St Pölten 2002 → Wien Hbf 2030
RJ 567 (?)
ウィーン泊
Ibis Wien Hauptbahnhof
今日はウィーン近郊の景勝地,ヴァッハウ渓谷を訪れる.ドナウ川が切り拓いた広大な谷で,シーズンの今は観光船が頻繁に川を往来している.沿岸にはブドウ畑を擁する小さな村が点在しており,古くから白ワイン造りが行われているようだ.往復のÖBBの乗車券と川下りの乗船券,それにメルク修道院の入場券がセットになったWachau-Ticket(€52)を事前に購入しておいた.ウィーンの宿はかなり早い段階から予約したのだがどういうわけか混んでいて3連泊は叶わず,3泊目は中央駅すぐそばのIbisホテルへ移動する.朝方,駅へ向かいがてらスーツケースを新たな宿に預け,西へ向かうレイルジェットに乗り込んだ.ザンクト・ペルテン(St Pölten)で普通列車に乗り換え,まるで北海道のように開けた景色の中をしばらく走ると,メルクの町が近づいてくる.シンボルの修道院は遠目にも際立っていた.
メルクは渓谷下りの拠点だが,普通列車しか停まらないごく小さな町である.駅を出て石畳の道をぶらぶらと下り,ほどなくして中心地の広場に行き着く.修道院の威容は町のどこからでも見上げることができ,再び階段と坂道を登っていくとエントランスに到着する.バロック建築の至宝といわれ,町の規模に比べれば不釣り合いなほど大きく,流麗な姿をした修道院である.
川下りの船までそれほど時間はないので,院内を急ぎ足で回る.残念ながら撮影は禁止だったのだが,図書館の蔵書や天井のフレスコ画などは見事なものであった.キリスト磔刑の十字架の木片が収められているというメルクの十字架(Melkerkreuz)なるものがこの修道院の宝であるようだが,さすがに普段は展示されていないとのこと.修道院の正面にはラテン語で"ABSIT GLORIARI NISI IN CRVCE"の文字が刻印されており,後から調べたところによると「十字架以外に誇りなし」と訳される新約聖書の一節であるようなのだが,どうやらMelkerkreuzに言及したものであるらしい.
修道院の外観をしばらく撮影した後,11時に出航する船でメルクを後にする.町を流れる小さな支流はすぐにドナウ川に合流し,悠々たる船旅の始まりとなる.晴れ間が広がったり,雲がかかったり,空模様は目まぐるしく動いていく.沿岸の断崖や岩山には数々の古城が点在しており,景色は飽きない.渓谷を渡る秋風に吹かれ,デッキで白ワインを飲みながら,デュルンシュタイン(Dürnstein)までの1時間半を過ごす.船内にはレストランもあって,酒や軽食も十分楽しめた.日常から遠く解放された贅沢な時間であった.
船は離岸していった.長閑なブドウ畑が辺り一面に広がっている.デュルンシュタインは渓谷に寄り添うごく小さな村である.まずは少しはずれにあるStockingerhofというホイリゲ(ワイン酒場)に入り,当地の名産の白ワインとともに軽食をとった.その後,色々な店を見物しながら一本しかないメインストリートを逍遥し,村のシンボルでもある青い鐘楼が印象的な修道院教会を訪れた.テラスにてドナウ川をのんびり眺めるひと時を過ごす.本当は15時台の船で去る予定だったのだが,別にウィーンで急ぐ用があるわけでもないので,夕方の最終便までゆっくり滞在することにした.ここではアプリコットも名産のようで,白ワインと一緒にリキュールの土産も手に入れる.昼下がりにはAlter Kloserkellerという別のホイリゲへ入り,マス料理を頂いた.暑すぎるわけでもなく過ごしやすい気候で,飲み歩きには最適な季節である.
下調べの段階で気になってはいたのだが,村を見下ろす丘の上には12世紀の城が廃墟となって佇んでいる.17世紀の三十年戦争の際に破壊されたものの,ほぼ当時の姿のまま残っているようだ.そこまで遠い距離ではなさそうなので,山へ入る道を探して登ってみることにした.途中からは舗装路ではなくなり,(同行者には申し訳なかったのだが)悪路や急坂が連続するただの登山となってしまった.しかし頂上からの景観は格別で,ドナウ川と渓谷が壮大なスケールで展開し,ブドウ畑に囲まれたデュルンシュタインの愛らしい町並みが一望のもとである.太陽高度も下がってきたようだ.陰翳が際立って妙な美しさが出てくるのも,この時間帯ならではの楽しみといえる.
丘を下りた頃にはすっかり夕方の日差しに包まれており,ブドウ畑も斜光線に染まっていた.川沿いへ至る坂道を下って桟橋へ戻り,下流のクレムス(Krems)へ向かう船に乗り込んだ.少し肌寒くなってきた夕刻,離れてゆく岸辺に目をやれば,あの青い鐘楼と古城が別れを告げるかのようにこちらへ向かって輝いている(本記事のトップ写真).いずれ再訪することがあれば周辺の村にも足を運んでみたい.さぞ魅力的であることだろう.
クレムスの駅に着いたのは18時半頃.ここからウィーンへ直通する列車もあるのだが,フランツ・ヨーゼフ駅という近郊列車のターミナルへの終着なので,そこからの市内移動が面倒である.そこでドナウの右岸へと渡るローカル線に目をつけ,ザンクト・ペルテンまで出た後はレイルジェットに乗り換えて中央駅まで戻るルートとした.このローカル線,2両編成の気動車列車であった.5047型というらしいが,三陸鉄道を彷彿とさせるカラーリングである.
ディーゼルエンジンの唸りを聞きながらボックスシートに身を委ねる.列車は誰も乗り降りしないような駅を発着していく.この日の晩は満月だったことをよく覚えている.月明かり以外は暗闇に包まれる中,この列車は本当にザンクト・ペルテンまで出るのかと不安になってくるが,ふいに幹線らしい電化された線路がたくさん見えるようになり,乗換え駅に無事到着したことが分かった.ここまで来れば,ウィーンまで特急列車であっという間である.最近の肉中心の料理にやや食傷気味であったので,夜は駅のイートインコーナーでアジア料理を軽く食べた.こういう塩っぽい,醤油っぽい味付けは,どうしても恋しくなるものだ.