Farewell, Series 0, the Immortal Pioneer of Shinkansen(2008.09.15)

0系新幹線

高速鉄道の先駆けにふさわしい,洗練されたフォルム

長い道程の末にようやく到着した目的地の駅.そこに20分も留まらないまま復路を歩み始めるとは,前代未聞である.九州寝台を東京から存分に満喫し,先ほど隣の門司にてはやぶさに別れを告げたばかり.本来ならこれからの道中でゆっくりその余韻に浸るところなのだが,悲しいかな,予定に従うならばもう東京へと引き返す時刻である.

復路は全くもって見どころなし,ではさすがに気が滅入る.そこで,上手い具合にダイヤがかみ合ったこともあり,この機会に0系新幹線の乗り納めを行うことにした.博多ではなく門司で降りたのもこれゆえである.N700系の増備に伴い,山陽新幹線で細々と余生を送っていた0系はいよいよこの11月でその歴史に幕を下ろす.40年以上前,高度成長真っ只中で高速鉄道の新時代を切り拓いた0系.今となっては第一線から完全に退いたものの,その果たした功績は計り知れないものがあろう.さらにこの春,最後の3編成がオリジナル塗装に戻された.西日本まで足を伸ばすことはあまりないだろうし,何よりも晩秋に引退だというから,この絶好の機会にいわゆる「記念乗車」の一員として参加することにしたのである.普段は鉄道趣味として特別の関心を向けることなく,新幹線といえば実用的先進的といった他人事のようなイメージしか抱かなかった私が大げさに言うのはいかにもニワカだが,たとえ10年でも20世紀を生きた者としてはこの0系に別れを告げねばならないように思ったのである.

往復乗車券の「かえり券」に入鋏した.往路の関係で経由が在来線になっているので,有人改札の通過である.ホームに上がる.つい先ほどまでは東京発熊本行のはやぶさに乗っていたというのに,もう上り新幹線ホームに立っているとはやはり不思議な感覚だ.そして,まもなく接近放送が流れると,遠くに0系が姿を現した.一言で言えば「丸い顔」.流線形であるにもかかわらず,独特の柔和な表情を見せている.切れ長の前照灯になった100系,デザインが一新された300系,まるで戦闘機のような500系,カモノハシの姿になった700系,そして何とも形容し難い最新鋭N700系.系式の変遷と共にますますノーズは長大化していくが,0系はこれらのいずれとも似かよらない.厳かに,しかし優美に構えるその姿を目にすれば,新幹線の原点に君臨する静かな貫禄といったものを感じざるを得ない.やがて列車はゆっくりと停車し,扉が開く.オリジナル塗装もまた味が出ていて,デッキに足を踏み込む瞬間は胸が躍った. 

0系新幹線
岡山行こだま号が入線

 前から2両目,5号車の自由席に座る.岡山までは3時間あまりのゆったりした道のりである.新幹線各駅停車の旅というのもなかなか趣深い.滑り出すように小倉駅を後にした列車は,しっかりした加速と共に発進した.やがて時速200km台に入ったと思われたが,走行は実に安定しており,一切の不安を感じさせない.かつての夢の高速鉄道にふさわしい,落ち着いた走りである.元祖0系新幹線,ここに在り.しばらくするとトンネルを抜け,列車は新下関に停車.この後も厚狭,新山口,徳山とのんびり停まっていく.途中区間は高速走行とはいえ,実に穏やかな午前の時間が車内に流れる.もう一つ特筆すべきは,ほぼ全ての停車駅で後続のひかりとのぞみに追い越されるという点.ホームの0系と合わせて撮影してみたりしたのだが,通過列車は恐ろしいスピードで我々を抜かしてゆく.「目にも止まらぬ速さ」という表現はあながち間違ってはおらず,わずか数秒間空気が震えたと思うと,パンタグラフから激しいスパークを散らしながら,既に列車はホームの彼方を去りつつある.そんな中でじっと停車する0系.時間の流れ方が違う.

0系新幹線
0系新幹線
0系新幹線
各駅でひかり,こだまに道を譲る.車内は随所に懐かしさが漂う

11時ちょうどに到着する新岩国では12分の長時間停車.折角なので反対側のホームまで移動して編成写真を収めることにした.天気はあいにくの雨だが,静かな,しかし広い新幹線ローカル駅の構内にただ6両で佇む0系の姿は印象的である.途中2本の列車に抜かれていった.そんなこんなで12分はあっという間に過ぎてしまったが,充実した撮影のひと時であった.各駅停車ならではのこうした余裕が嬉しい.新岩国の次は広島.そして東広島,三原,新尾道,福山,新倉敷と順々に停まっていく.小倉にて急いで買った軽食などを口にしつつ,のんびりとした時間を過ごすのみ.客室は2列×2列配置のシートで実にゆったりとしており,言うことなしの快適さ.見たところでは乗車率は3割程度.適度に閑散としていてこれまた落ち着く.デッキや通路に残された昭和の遺物を時折目にしつつ,岡山までの旅路を楽しんだのだった.一つ目を引いたのは,華々しく活躍する0系の写真が,本来ならば広告が入るであろう壁の額に収められていたこと.かつての栄光を彷彿させる演出.いよいよ最後を迎えるこの名車両の功績を偲んでのことだろう.昨晩の九州寝台と同様,時代の流れには抗えないというのは事実である.そうと分かっていても,どうしても寂しい気持ちに襲われるものだ.

新岩国に長時間停車.ここでも後続列車が猛然と抜かしてゆく

12時53分,列車は定刻で岡山に到着した.新幹線は高速性,安全性のみならず,その極めて正確な定時性が海外でも評価されているという.単なる新幹線車両の1形式ではなく,「新幹線」という画期的な高速鉄道システムそのものを象徴する存在としての0系の姿を垣間見たように思う.列車はしばらくホームに停車した後,粛々と引き揚げて行った.

0系新幹線
0系新幹線
終着の岡山にて

 

この記事は,過去の紀行文を加筆修正したものです.

 

2008.09.15
小倉0939 → 岡山1253
山陽新幹線 こだま638号