北の鉄路(2) 転戦(2015.06.20)
2015.06.20
五能線撮影:
下り普通(深浦~広戸 奇岩)
黄金崎不老ふ死温泉
五能線撮影:
上り普通(深浦~広戸 カーブ)
下り普通(横磯~深浦 後追い)
上り普通(十二湖~陸奥岩崎 ガンガラ穴)
上り普通(横磯~深浦 水田)
撮影:
下りはまなす(青森)
青森泊
津軽線で迎えた上りはまなすは日が翳ってしまい,やや意気消沈した.しかし,まだ6時にもならない.一日は始まったばかりである.気を取り直し,計画どおり五能線へ転戦することにした.国道7号,そして101号と80kmあまり車を走らせ,大戸瀬~千畳敷の田野沢陸橋から撮影を開始する(この橋の欄干と防護柵はそれなりの高さであったと記憶している).同じ沿岸部でも海峡の気候とは異なり,五能線は幸い晴れているようだ.恵まれた天候のもとでこの路線に対峙するのは初めてなので,王道の有名撮影地を中心に訪れつつ,数少ない作例しかないマイナーな場所も適宜盛り込んでいくことにした.本記事では新たな試みとして,中途半端な叙事文は控えめに,スナップを含めた写真とキャプションが主体の構成を行ってみたいと思う.
有名撮影地には,どんな撮り方をしても及第点の写真が出来上がるだろうという妙な安心感がある.その分,作画の面白みはある程度犠牲になっているかもしれない.この後は正午過ぎまで2時間以上空くので,艫作にある黄金崎不老ふ死温泉を訪れることにした.
午後は広戸の近くで別の切り取り方を試してみた.左手奥に遠く見える海岸線には,二駅先の追良瀬を過ぎて驫木へ向かう途中の鉄路が寄り添う.なかなかのスケール感だ.
日本海のどこか哀しげな青さを正確に表現するのは大変難しいのだが,太平洋側とは明らかに違う表情が少しでも伝わればと思う.前回訪れたときは完全に曇っていた十二湖近くのガンガラ穴も訪れたが,果たして磯は初夏の陽光を目いっぱいに受けてブルー・グリーンが美しく煌いていた.この撮影地には,波の撮影に夢中になっていたら列車を撮り損ねたという苦い思い出があるのだった.
横磯で再びオリジナル構図に挑戦しつつ,夕方にかけては追良瀬~驫木の有名な海岸線で列車を迎え撃つことにした.防風林の崖と,塩見崎の頂上というこれまた王道の撮影地.本日のメインともいえる.今まで厳しい冬の姿しか知らなかったが,この季節もなかなかに魅力的だ.根底にあるのは,やはり日本海が見せる複雑な表情である.たとえ晴れていても,いつも何かを隠しているようで,ふとした瞬間に妙な寒々しさが襲いかかってくるような感じがするのは,なぜなのだろう.2連のキハ40が景色に彩りを添える.
撮影対象の列車は残すところあと1本となった.上り列車が西向きの線形となる北金ヶ沢の近くならきっと撮れるだろうと踏んで,跨線橋からオリジナル構図を作ることにした.塩見崎からの移動がぎりぎりだったと記憶している.この場所に関しては景色を捨てて車両を大写しで切り取るとか,もっと工夫のしようがあったかもしれない.田畑や海など色々な要素が写り込むものの統一感も文脈もない写真になってしまった.練習を重ねていくしかない.
この地には日本最大のイチョウがあるということで,せっかくだから訪れてみた.樹齢1000年をこえる老木で,一般的に想像するところの樹木というよりは巨大な"mass"としてその場に鎮座している.幹や葉はたしかにイチョウのそれであり,黄葉の時期などはさぞかし壮観なのだろう.またイチョウの少し手前では,関の甕杉というこれまた樹齢を重ねたスギを拝むことができた.海に面した本州のこんな北辺に古木が集中しているのは,いささか不思議である.
青森へ向けて,101号線の夜道を走った.今となっては,6年前の出来事だ.もうそんなに時間が経ったのか.結局この日を最後に,五能線のキハ40に会うことは二度となかった.何度か訪れ,乗車も撮影もそれなりに楽しんだ線区ではあったが,悔いがないといえば嘘になる.目まぐるしい日常に溺れている間に,キハ40系列はいなくなってしまった.決して知らなかったわけではないが,会えなかった.分かってはいてもいつの間にか好機を逃し,突然の別れが来て,ともすれば日常の喧騒にかき消されがちだが漠然とした喪失感に苛まれる.一定の年を取ってしまった以上,あらゆる場面でこの流れがあり得るといういうことを忘れないようにしたい.この日の夕食をどこでとったかは覚えていない.宿はといえば,前晩と同じ駅前の東横インに二連泊である.ひと休みの後,夜は駅へ繰り出して下りはまなすの発車を見届けることにした.優等列車にふさわしく入線から発車までは30分以上あり,ゆったりとしたひと時を過ごすことができた.
翌朝も早いので,宿に戻り早々に床に就いた.
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