オーストリア・ドイツ旅行(4) ザルツブルク(2018.09.26)
2018.09.26
ザルツブルク(Salzburg)観光
ミラベル宮殿(Schloss Mirabell),旧市街散策,ホーエンザルツブルク城(Festung Hohensalzburg),モーツァルト(Mozart)生家,聖ペーター教会(Stift St. Peter)など
今日はザルツブルクの名所を回っていく.半世紀前のミュージカル映画,"The Sound of Music"でも有名なオーストリアの古都である(この映画は,同行者の勧めもあって旅行前に予習していたのだった).
まずはミラベル宮殿へ.朝の順光に輝いていた.こういう建築は,水平さえ決まればどんな構図でもそれなりにきれいに写るものだ.有名な「ドレミの階段」も訪れる.大多数の観光客は庭園側から記念撮影していたが,それはモグリなのだと同行者は憤慨していた.確かに,映画を忠実に再現するなら段上からホーエンザルツブルク城を見る向きでなければならない.しかし,今は逆光というか完全に日陰となる時間帯なので露出が結構難しい.一方の作中ではバッチリ順光だったから,地図や航空写真を見るに,きっと夏の晴れた夕方にでも撮影したのだろう.
その後は庭園を抜け,ザルツァッハ川(Salzach)に沿って町を散策.モーツァルト小橋を見物しつつ,川の左岸(南岸)に展開する旧市街(Altstadt)へと歩いていく.丘の上からはいつも城塞が町を見下ろしている.石畳の旧市街はコンパクトにまとまった街区で,まずは象徴的ともいえる大聖堂を訪れる.外観に比して内装はかなり華やかなもので,海外では初の携行となる広角レンズでの撮影を楽しんだ.手持ちで完璧な対称性を実現するのは,意外と難しいものである.昼にはケーブルカーで丘を登り,ホーエンザルツブルク城の要塞から快晴の古都を一望した.
忘れないうちに書き留めておきたいのだが,アナクロフクロウ氏(梟の島の著者)との最近の対談を通して気づかされたのは,西ヨーロッパの諸々の歴史的建築は「線の芸術」としてすでに完成しているのではないか,という論点である.すなわちこれらの対象物は,正解を正解としてカメラで撮る,という分かりやすい(しかし必ずしも技術的に簡単ではない)図式を潜在的に,また図らずも時代を越えて内包しているのである.しかもその図式は(このテーマは非常に深遠かつ難解なので,ここではあまり深入りしないが)主として「線で知覚する」自分の撮影様式,構成手法,まあ平たくいえば感性なり写真の作風なりとの親和性が高いのではないか,という考察へも発展していく.こうして過去の写真を振り返りながら海外紀行を書いていると,まさしくその通りに思えてくる.基本的には,厳然たる正解に近づくよう時間をかけて撮った写真はたくさんあっても,正解自体が分からずに構図や露出に悩んだ写真はかなり少ないのだ.氏の指摘はいつも鋭く,なるほどと唸ってしまう.
一方で国内については10年以上前に全都道府県を踏破し,津々浦々をそれなりに旅して色々な光景をカメラに収めてきたつもりだが,それらの光景には写真としての一定の正解はあっても,元から想定された正解というものがほとんどないことに気がつく.したがってどんな撮影産物も正解となり得るのだが,だからといってどれも正解で良いというわけではない.では何が良くて何が悪いのか,その判断基準は何なのか,さらにその基準を他人どうしが感覚的に共有できるという現象はどういう仕組みなのか,などなど,議論は尽きなかったものだ.また,その議論こそが撮影の面白さでもあった.どの年代の自分の写真を振り返っても成熟程度の差はあれ「線の知覚」は垣間見えるが,やはり既定の正解というものがない中で,その知覚様式で色々と考え,もがきながら撮った産物が多いように思う(なお,ここで論じている対象は人物や自然景観ではなく,あくまで人工的な無生物に限った話であることには注意が必要であろう).
ホーエンザルツブルク城は大昔からこの丘の上にあり,たび重なる増改築を経て現在の姿となったようだ.拷問博物館のような展示もあって見ごたえがあったのだが,石段の昇り降りも含めて歩き回ったので,それなりに疲労した.丘を下りた後,モーツァルト広場の近くにあるK+K am Waagsplatzというビストロでやや遅めの昼食をとることにした.またもやStieglを飲みながら屋外席でのんびり過ごす.昼から飲むビールほどうまいものはない.出てきた料理は,うどんのようなパスタ以外はどれも美味しかったと記憶している.
ゲトライデ通り(Getreidegasse)は賑やかなショッピングストリート.店の看板が景観を壊さないよう配慮されているのが面白い.午後はそのほかモーツァルトの生家や,これまたロケ地の聖ペーター教会の墓地などを訪れた.実は生家は小学校中学年のときだったか,家族旅行で訪れたことがあって当時の写真も残っているのだが,あまり記憶に残っていない.
夕方を迎えるとエレベーターで旧市街の西側にあるメンヒスベルク(Mönchsberg)の丘に登った.頂上には近代美術館やレストランがあり,その手前の見晴らしの良い道はこれまたロケ地なのだが,同行者は歩き回ってくたびれたらしく(あるいは朝のミラベル宮殿で精力を使い果たしたらしく),丘の小径を入ったところにあるベンチで休憩することにした.木陰のベンチ,あったじゃないか(航空写真でそれらしきものは確認していたのだが,確証はなかった).果たして眼下の旧市街は順光の斜光線に照らされている(これは計算した).快晴の天候も味方した.そして,しばらくしてまどろみから目覚めた同行者は,この日,この地で婚約者となったのだった.
右岸にあるAlter Fuchsという地元民に人気の居酒屋で夕食をとった後,宿に戻った.