オーストリア・ドイツ旅行(5) ミュンヘン(2018.09.27)
2018.09.27
Salzburg Hbf 0800 → München Hbf 0941
EC 390
München Hbf 1001 → München-Aubing 1018
SBA 6440
Aubing-Puchheim間にて撮影
München-Aubing → München Hbf
S-bahn
ミュンヘン(München)観光
オクトーバーフェスト,聖ペーター教会(St. Peterskirsche)
München Hbf → München Flughafen Terminal
S-bahn
2018.09.27 → 09.28
Flughafen München(MUC) 2125(GMT+1) → 東京・羽田(HND) 1550(GMT+9)
全日本空輸218便(NH 218)
一夜明け,旅行最終日となった.国際列車でドイツ国境を越え,ミュンヘンを目指す.羽田行の直行便に乗る関係でこのような行程となったわけだが,出航は夜なのでまる一日を観光に充てることができる.ザルツブルクを8時ちょうどに出るユーロシティに乗車.この区間の大半の列車はレイルジェットとなっているが,古典的なヨーロッパの特急というイメージを追い求め,数少ないユーロシティを選んだのだった.コンパートメント車両に乗り込み,南バイエルンの青々とした草原を眺めながら,ものの1時間40分ほどでミュンヘンに到着となる.
駅のコインロッカーにスーツケースを預け,さて市内観光,となるのが普通だが,午前中は鉄道撮影を計画しているのだった.異邦では初となる試みである.近郊路線のS-bahnに乗り換え,市の西の果てにあるアウビング(Aubing)なる駅で下車.ベッドタウンとしての開発が進んでいるのか,駅前は工事中であった.しかし,すぐに長閑な畑の風景が広がる.駅から歩くこと15分ほど,あぜ道を突っ切り,アウトバーン(Autobahn)99号線のアンダーパスを跨いだ先の土手が撮影地である.事前に調査を重ねた結果,中央駅から良好なアクセスでありながら,それなりに景色もすっきりしている場所として選定した.感覚としては東北本線の東大宮~蓮田に近いものがある.当地のヲタが撮影したと思われる写真が画像検索でヒットし,航空写真から撮影地を特定した.本当に便利な時代になったものだ.
本番までは一時間弱の余裕があるので,レギオナルツーク(Regionalzug)やS-bahnの列車で練習.ただのストレートだと思っていたのだが,サイドから狙うか,それとも正面がちに望遠を効かせるか,どうやって茂みを回避するか,スタンバイする土手の高さをどれくらいにするか,そもそも本当に想定の編成長でやって来るのかなどなど,細かい検討点がたくさん出てくる(本業との関連性や相似性は別の記事であらためて論じたいが,この過程は脳動脈瘤の手術とよく似ている).それに,ごく短い夏季休暇と海外旅行の最中にわざわざこんなところまで来ているのだから,絶対に失敗できないというプレッシャーもにわかに感じ始めており,一応(ピクニック気分で)雑談に興じる予定だった同行者をその辺の木陰に放置してしまった.
本命となるEC 191列車はかなりの速度で飛ばしてきた.ファインダーの中で覗くだけでもド迫力.危うく尻切れになるところであった.早朝にスイスのバーゼル(Basel)を発った列車は,終着ミュンヘンを目前にラストスパート.スイス連邦鉄道の客車編成を,ドイツ鉄道の218形ディーゼル機関車が重連で牽引する様は,ただ純粋に「カッコいい」.この列車のために今日の一日があるといっても過言ではなかっただけに,大満足のうちに撮影地を後にした.
折り返しとなるチューリヒ(Zürich)行のEC 194列車は正面が逆光なので,畑のあぜ道からサイドを狙う計画であった.雲ひとつない快晴の空が続いており,独特のコントラストなり編成美なりを期待していたのだが,通過の際にちょうど黄色い保線車両が手前に丸被りとなってしまい,こちらはまさかの撃沈.そうだ,この国は右側通行だったのだ.意気消沈してアウビングの駅へ戻る.
午後はミュンヘンの中心街を観光する.こちらに関してはザルツブルクを出た後の列車内でようやく下調べを始めたというかなりいい加減な有様で,何とオクトーバーフェストの時期がかぶっていたということも旧市街を歩いて初めて気が付いたのだった.街は活気に溢れており,そこかしこで市民がビールを飲んでいる.バイエルンの民族衣装に身を包んだ人もちらほら見かける.「ああ,あれね」というのは分かっても,ディアンドル(Dirndl),レダーホーゼ(Lederhose)という名前は知らなかった.素人目にはチロルの山奥に似合いそうな独特の衣装だが,実際その辺りでも着られているらしい.バイエルン州はオーストリアとの地理的,文化的なつながりが強いと見える.Augustiner am Domという店に入って2~3杯のビールを飲み,肉やソーセージを食べる.気候もちょうど良く,午前を費やした撮影の苦労が報われていくかのようだ.
昼下がりは街角でアイスクリームを食べつつ,マリエン広場(Marienplatz)をぶらぶらする.とりあえず高いところに登って街を眺めようということで,聖ペーター教会(St. Peterskirche)の鐘楼を訪れた.同行者は午前中に撮影地を連れ回されたうえ,昼のビールと長大な階段昇降を経て,かなりへばっていた.頂上からの眺めは整然としているが,ザルツブルクほどの大きな感動はなかったというのが正直なところである.
日も西に傾いてきたことなので,空港へ向かうべくそろそろ中央駅へ戻る.ミュンヘンの街は観光というか,本場オクトーバーフェストの雰囲気を味わいビールを楽しんだという記憶が主に残った.さて,駅で少しばかりICEなどの撮影を行っていると,何と遠くから再び218形率いるユーロシティがこちらへ向かって入線してくるではないか.20分ほど遅れて到着する195列車のようだ.下調べから完全に漏れていたが,まだ少し時間もあることなのでここは最後まで徹底的に撮影を楽しむことにしよう.
本形式は旧西ドイツ国鉄が製造した幹線・亜幹線用ディーゼル機関車の一群V160形ファミリーの完成形とされる.悲運の機関車とされる本邦国鉄のDD54は,V160形の設計をもとに生産されたようだ.なるほど,どこか見覚えがあると思ったらそういうことだったのか.
箱型の機関車でありながら直線と曲線が絶妙に組み合わされた造形であり,観察すればするほど細部にわたり美しさが宿っていることが分かる.丸みを帯びた窓や屋根,ライト周り,それにウサギの耳と形容されるV字型の排気口などなど,随所に愛嬌が感じられ表情も柔和なのだが,一方で特急牽引機としての精悍さや風格,重厚感といったものも十分に兼ね備えている.全体としてはずんぐりした出で立ちだが,斜めに切れ込んだ流線形や曲面構造が独特の良い味を出しているのだ.
この218形機関車,チューリヒやバーゼルとミュンヘンとを結ぶユーロシティの運用からは間もなく退くらしい.何でも,詳細は忘れてしまったがスイス方面に残っていた非電化区間の電化工事が近々完了するからだという.この機関車にとっては特急列車牽引という間違いなく花形の仕業だったであろうに,まあ時代の流れで仕方がないとはいえ寂寥感は大きい.最後は反対側ホームの端へ移動し,EC 190列車としての発車を見届けることにした.すでに別の重連ペアが連結されており,夕刻の斜光線に紅のボディが妖しく染め上げられていた.
そして,列車はゆっくりと滑り出した.ディーゼルエンジンの轟音が響き渡る.図らずもギラリが実現して,なかなか良い絵が撮れた.次に会えるのはいつになるのだろう.同じくホーム端にいた当地のヲタとも話したのだが,やはり本形式の運用終了を大変残念がっていた.日本から撮りに来ていたことにだいぶ驚いていたが,まあ確かに,逆の立場ならそれは驚くだろう.
そろそろ時間が迫ってきたので,S-bahnで空港へ向かう.ミュンヘンから飛んでいるのは羽田へ向かう夜行便.全日空の運航と機材で,往路に比べると相当に快適な環境であった.今回はかなり短い期間での海外旅行となったが,我ながら(重要局面も含めて)色々なエッセンスを凝縮した行程になったのではないかと思う.旅を組み立てる楽しみは今後も忘れずに追い求めていきたいものだ.